気持ちが追いつかない

どこにも吐き出せないので、ここへ。

夏に会ったときには、ぼくと一緒にパズルができるくらい、畑のトマトの面倒を見られるくらい、一緒にお墓参りに行けるくらい、元気だったじゃない?3週間前に会った時だって、自分で歩いて病院に行けて、一緒にすき焼きを食べられて、話もできて、またねってしたじゃない?次に会ったら変わり果てた姿で病院のベッドにいて、一週間が山ですなんて、長くて1ヶ月ですなんて言われると思ってないじゃない?

早い早いって聞いてはいたけれど、なんとなくの覚悟をしたつもりだったけれど、その想像をはるかに越えるスピードで状況が変化していて、まったく気持ちが追いつかないのです。どこか現実味がなくて、でも、家の中のあちこちのその人がいた、これからもいるつもりだった痕跡が視界に入ると、この急なさよならの現実が目の前に迫ってきて、とてもとても抱えきれないのです。茶の間にぶら下がったままのチェックシャツ、書斎に置かれた日記、枕元のラジオ、丁寧に片付けてあるぼくのおもちゃ。目に入るあれこれから、記憶が、思い出がよみがえってきて、気持ちが溢れてどうしていいのかわからないのです。3日で戻ってくるからと着の身着のまま出かけたこの家に、帰ってこられるかどうかわからないなんて信じられなくて、信じたくなくて。

無機質な病院の白い部屋でたくさんの管に繋がれて、痛みと、苦しみと向き合うその姿は、大きくて強くて優しかった、小さな私の記憶の中のその人と同じ人だなんて思えないのです。全然、受け止められない。

やっと夫婦の時間ができて、やりたいことも、行きたいところもたくさんあったはずなんです。頑固でちょっと変わった人だけれど、家族には優しかったと思う。

公園で弟と3人でサッカーをした。一緒に図書館に通った。会社帰りに美味しいお菓子のお土産を買ってきてくれた。魚は骨を外して取り分けてくれた。読書感想文は徹底的に手伝ってくれた。休日の昼ごはんは焼きそばだった。赤ちゃんの頃は本当に可愛かった、が口癖だった。お揃いのトレーナーで箱根に行った。ディズニーランドでは並んでおくからお土産を見てきていいよと行ってくれた。ハワイの結婚式ではちょっと泣いてた。赤ちゃんだったぼくを抱っこしてとても嬉しそうだった。

残り少ない時間、なるべく苦しくなく過ごせますように。ちゃんとありがとうを伝えられますように。